第3話 「昼前」

目が覚めると、すでに昼前だった。

カーテンの隙間から差し込む光が、部屋のほこりを照らしている。

昨日の夜は妙に寝つけなかった。

あの地図の赤い印が、何度も頭に浮かんできて──気づけば朝になっていた。

「腹減ったな……」

寝ぼけたまま、台所でカップラーメンにお湯を注ぐ。

すすりながらスマホを眺め、特に興味もないニュースを流し読みする。

“値上げ”“炎上”“事故”。

同じような文字が流れていく。

何も感じなくなっている自分に気づき、少し笑えた。

食べ終わったあとも、まだ何か物足りない気がして、パンを取り出した。

食パンを手に取り、ぼんやりとかじる。

その瞬間──ふと、視界の端に妙な形が映った。

「……地図、みたいだな。」

パンのかじった跡が、まるで昨日見つけた地図の形に見えた。

偶然だろう。

だが、あまりにもタイミングが良すぎた。

テーブルの上にパンを置き、昨日の箱を引っ張り出す。

中の地図を広げて、パンの形と見比べてみる。

当然、一致するはずもない。

でもなぜか、心臓が少しだけ早くなっていた。

「……行ってみるか。」

自分でも、なぜそう思ったのか分からない。

ただ、あの赤い印をこのまま放っておくと、ずっと気になり続ける気がした。

マップアプリをもう一度開く。

車で2時間、そこから少し山に入るルート。

「ま、天気も悪くないし……ドライブがてら、な。」

小さく呟き、車の鍵を手に取った。

その瞬間、どこからか“カチッ”という音がした。

振り向くと、机の上に置いたあの銀色の鍵が、わずかに転がっていた。

まるで、出発を促すかのように。

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