第1話 「同じ朝」

俺はどこにでもいるサラリーマン。

毎日同じ電車に乗り、毎日同じ職場で同じ顔に挨拶。

昨日も今日も、きっと明日も変わらない。

子供の頃は毎日が楽しかったのに、いつからこんな生活になったのだろう。

まだ人生は50年くらいあるだろうか。

半分が過ぎた今、残りを考えると気が遠くなる。

お金があるわけでもないし、妻や子供がいるわけでもない。

友達もいない。

定年後、何をして過ごせばいいのか──考えるだけで胸が重くなる。

明日は久しぶりの休み。

特に予定もない。

せめて部屋の不用品でも片付けよう。

そう決めて、コンビニ弁当を食べ、テレビを眺めながら眠りに落ちた。

翌朝、遅い朝日がカーテン越しに差し込む。

目を覚ましても、起き上がる気力が湧かない。

しばらくぼんやり天井を見つめた後、ようやく体を起こす。

「捨てるか……」

呟いて、重い腰を上げた。

押し入れの奥や引き出しの中。

何年も触っていないものが山ほど出てくる。

もう使わないケーブル、壊れた時計、古い封筒。

それを一つひとつ分けながら、無意識に手が止まった。

引き出しの一番奥、何かの影が見えた。

指先で掴んで引き出すと、薄い黒い箱が出てきた。

見覚えがない。

「こんなの、あったか……?」

手のひらに収まるほどの小さな箱。

埃を払い、ゆっくりと蓋を開ける。

中には──銀色の鍵が一つ、入っていた。

どこの鍵なのか分からない。

ただ、妙に冷たくて、重く感じた。

胸の奥で何かがざわついた。

心当たりのない“鍵”を見つけた瞬間、部屋の空気が少しだけ変わった気がした。

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