俺たちは、いつのまにか「仲間」と呼ばれる関係になっていた。
一緒にホールを回り、同じグラフを見て台を選ぶ。だが、勝った金はそれぞれのもの。そこにルールはない。
問題はすぐに起きた。
同じパターンを追う以上、狙う台がかぶる。先に座った者が勝ち、遅れた者はただ見ているだけ。
そのうち、互いに牽制し合うようになり、台の取り合いが始まった。肩をぶつけ、罵声が飛び、ついには店員が止めに入ることもあった。
「なんでそんなにこの台にこだわるんですか?」
店員の目が、少しずつ俺たちに向けられ始める。
数時間後、その“揉めた台”が爆発的に出すのだから、無理もなかった。
あの二人は気づいていないようだったが、店員の視線は日に日に鋭くなっていた。
俺は悟った。
――もう長くは続かない。
この街から離れよう。そう決めたのは、ほんの気まぐれだったのかもしれない。
だが、どこかで終わりを感じていたのは確かだった。
引っ越しの前日、俺は最後に近所のホールへ向かった。
そして、フロントで店長を呼び出し、スマホの画面を見せた。
そこには、例の二人が出玉を積み上げ、笑っている写真が並んでいた。
「自分も一時期は一緒にいましたが、もう引っ越します。
二度とこの辺りでは打ちません。」
店長は眉をひそめ、そして静かに頷いた。
「ありがとう、助かります。」
その言葉を聞いたとき、胸の奥が妙に軽くなった。
夜風が顔を撫でる。ネオンの光が遠ざかっていく。
俺は誰にも知られず、街を後にした。
――また、ゼロから始めればいい。
そう思いながら、背後のホールが小さく消えていくのを見つめていた。
