俺は出玉グラフを見て打つ。それだけだ。
朝から並ぶこともなく、他の“プロ気取り”と揉めることもない。
複数の店を回るから、店員からも目をつけられない。
――このままずっといける。そう思っていた。
その日は順調だった。
夕方、パターン通りの台を見つけ、下皿が満タンになった。
トイレに立ち入ると広いトイレなのに、わざわざ右隣に来た男が声をかけてきた。
「なぁ、お前、なんでそんなに勝てるんだ?」
無視した。だが、次の瞬間、左隣にも別の男が立っていた。
二人は互いに目を合わせ、まるで打ち合わせでもしていたかのように続ける。
「どの店でも勝ってるよな。何年も。偶然じゃねぇだろ?」
「教えろよ、俺たちにも勝ち方をさ。」
心臓が強く鳴った。
こいつら……俺を見ていたのか。
脅しの言葉も混じっていた。「断るなら、お前のこと全部バラすぞ。」
逃げるわけにもいかない。
ここで敵を作るのは得策じゃない。
俺は、簡単に見える“表向きの理屈”だけを教えた。
「Aタイプ限定。波の形を読むんだ。出方を見ればわかる。」
二人は興味深そうに聞き、納得したように笑った。
「へぇ、なるほどな。じゃあ、今度一緒に打とうぜ。」
それから数日、俺たちは行動を共にした。
最初は奇妙な連帯感さえあった。
情報を共有し、台を譲り合う。
だが――俺の勝率が少しでも落ちた時、二人の目の色が変わるのを、俺は見逃さなかった。
光の下で笑う彼らの顔に、何か冷たい影が差していた。
そのとき初めて、俺は思った。
――仲間、なんて言葉は、この世界には存在しないのかもしれない。
