【第三話】 囁きと脅し

俺は出玉グラフを見て打つ。それだけだ。

朝から並ぶこともなく、他の“プロ気取り”と揉めることもない。

複数の店を回るから、店員からも目をつけられない。 

――このままずっといける。そう思っていた。

その日は順調だった。

夕方、パターン通りの台を見つけ、下皿が満タンになった。

トイレに立ち入ると広いトイレなのに、わざわざ右隣に来た男が声をかけてきた。

「なぁ、お前、なんでそんなに勝てるんだ?」

無視した。だが、次の瞬間、左隣にも別の男が立っていた。

二人は互いに目を合わせ、まるで打ち合わせでもしていたかのように続ける。

「どの店でも勝ってるよな。何年も。偶然じゃねぇだろ?」

「教えろよ、俺たちにも勝ち方をさ。」

心臓が強く鳴った。

こいつら……俺を見ていたのか。

脅しの言葉も混じっていた。「断るなら、お前のこと全部バラすぞ。」

逃げるわけにもいかない。

ここで敵を作るのは得策じゃない。

俺は、簡単に見える“表向きの理屈”だけを教えた。

「Aタイプ限定。波の形を読むんだ。出方を見ればわかる。」

二人は興味深そうに聞き、納得したように笑った。

「へぇ、なるほどな。じゃあ、今度一緒に打とうぜ。」

それから数日、俺たちは行動を共にした。

最初は奇妙な連帯感さえあった。

情報を共有し、台を譲り合う。

だが――俺の勝率が少しでも落ちた時、二人の目の色が変わるのを、俺は見逃さなかった。

光の下で笑う彼らの顔に、何か冷たい影が差していた。

そのとき初めて、俺は思った。

――仲間、なんて言葉は、この世界には存在しないのかもしれない。

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