いつも同じ時間に起き、同じ電車に揺られるだけの生活。そんな平凡なサラリーマンの田島が、ある朝の散歩で竹藪の中に黒いビニール袋を見つけた。中には、数えるのも億劫になるほどの一万円札。――一億円。警察に届ける勇気もなく、家に持ち帰った田島は、封を切らずに押し入れへと押し込んだ。
だが日が経つにつれ、「少しだけなら」と気持ちは揺らぐ。封筒一枚分を抜き取り、ランチを豪華にしてみた。誰も怪しまない。次はブランドの時計、次は海外旅行。何も起きないと知ると、歯止めは効かなくなった。
気づけば半年。金は尽き、贅沢な暮らしの後にはクレジットの支払いだけが残った。竹藪に戻っても、あの袋はもうない。風に揺れる竹の音が、彼を嘲笑うように響いていた。
