「約束の写真」——1970年大阪万博にて
1970年の春、まだ肌寒さの残る万博会場に、ひとりの少年とおばあさんが訪れていました。
少年は小学4年生。おばあさんは、いつも腰を曲げてゆっくり歩く優しい人でした。
少年は万博が始まる前から「太陽の塔を見に行こう」と言い続けていました。
おばあさんは当時、戦争を経験しており、電気の灯りすら貴重だった時代を知る人。
そんな彼女にとって、未来をテーマにした万博はまるで夢のような世界でした。
会場に入ると、世界中の国のパビリオンが並び、人々の笑顔があふれていました。
おばあさんは何度も足を止めて、目を細めながら言いました。
「人が国を超えて集まって、笑ってる… ええ時代になったもんやねぇ」
少年は嬉しそうに太陽の塔の前でポーズをとり、おばあさんがカメラを構えました。
「ほら、ちゃんと笑いなさい。未来に残る笑顔やで」
カシャッ。
それが2人が一緒に撮った、最後の写真になりました。
50年以上の時が流れ、2025年。
その少年はもうおじいさんになり、自分の孫と一緒に再び大阪万博の地を訪れます。
新しい太陽の塔を見上げながら、孫が聞きました。
「おじいちゃん、これ昔もあったの?」
「うん。お前のひいおばあちゃんと、ここで写真を撮ったんや」
ポケットから、色あせた小さな写真を取り出します。
そこには、未来に夢を見て笑う少年と、それを優しく見つめるおばあさんの姿。
孫はその写真を大事そうに受け取り、言いました。
「じゃあ次は僕と撮ろうよ。ひいおばあちゃんにも見せてあげよう」
太陽の塔の前で、世代を超えて繋がる笑顔。
人と人とが未来を信じ、つながるという万博のテーマが、そこに静かに息づいていました。
