第5話 生きている実感

機体は無事に羽田へ緊急着陸した。

ドアが開くと同時に、警察と救急隊がなだれ込む。

犯人は拘束され、俺たちは事情聴取のために別室へ。

椅子に座ると、ようやく呼吸が整ってきた。

あのCAも奇跡的に命を取り留めたと聞き、涙が溢れた。

生きている――。

その事実だけで、全身が震えた。

誰かが肩を叩き、「ありがとう」と言った。

俺は笑うことも泣くこともできず、ただうなずいた。

窓の外に見える東京の街。

もしあのまま突っ込んでいたら、ここにはもう存在していなかった。

「多くの命を救ったんだ」

そう言われても実感はない。

ただ、あの瞬間に自分が“生きようとした”ことだけは、確かに覚えている。

――あれほど怖くて、

あれほど生を感じた瞬間は、

生涯、もう二度とないだろう。

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