目的地の近くに到着した。
ここから先は車では行けない。
徒歩で山道を進むしかなかった。
あたりはもう真っ暗だ。
車のライトを消すと、闇が一気に押し寄せてくる。
虫の鳴き声と、木々が風で擦れる音。
それ以外は何も聞こえない。
こんな場所に車を停めているだけで、自殺志願者に見られそうだ。
正直、怖かった。
熊だって出るかもしれないし、変な奴らに出くわすかもしれない。
いや、もしかすると──幽霊だって。
考えれば考えるほど足がすくむ。
けれど、ここまで来て引き返すのも嫌だった。
地図を見る限り、目的地までは徒歩20分。
「早歩きなら15分で着くか……」
そう自分に言い聞かせ、スマホのライトを点けて歩き始めた。
乾いた枝を踏むたび、音が山に響いた。
木々の影が動くたびに、誰かが後ろを歩いているような錯覚に襲われる。
息が荒くなり、心臓の鼓動が耳の奥で響いた。
やがて、地図の位置とスマホのマップが重なった。
「……ここだ。」
見渡しても、ただの斜面と雑草しかない。
何かの目印があるわけでもない。
とりあえず、落ちていた太い枝を拾い、地面を掘り返してみる。
ザクッ、ザクッ──湿った土の感触が伝わる。
それでも、何も出てこない。
もうやめようかと思った、その時だった。
ゴンッ。
硬い何かに当たった。
思わず息を止め、手で土をかき分ける。
土の中から、錆びた金具が見えた。
さらに掘ると、金属の取っ手が現れた。
「……スーツケース?」
両手で引きずり出すと、全身が土まみれになった。
時計を見ると、掘り始めてからもう一時間が経っていた。
スーツケースほどの大きさの鞄。
鍵穴が一つ、銀色に光っていた。
