第5話 「掘り出す」

目的地の近くに到着した。

ここから先は車では行けない。

徒歩で山道を進むしかなかった。

あたりはもう真っ暗だ。

車のライトを消すと、闇が一気に押し寄せてくる。

虫の鳴き声と、木々が風で擦れる音。

それ以外は何も聞こえない。

こんな場所に車を停めているだけで、自殺志願者に見られそうだ。

正直、怖かった。

熊だって出るかもしれないし、変な奴らに出くわすかもしれない。

いや、もしかすると──幽霊だって。

考えれば考えるほど足がすくむ。

けれど、ここまで来て引き返すのも嫌だった。

地図を見る限り、目的地までは徒歩20分。

「早歩きなら15分で着くか……」

そう自分に言い聞かせ、スマホのライトを点けて歩き始めた。

乾いた枝を踏むたび、音が山に響いた。

木々の影が動くたびに、誰かが後ろを歩いているような錯覚に襲われる。

息が荒くなり、心臓の鼓動が耳の奥で響いた。

やがて、地図の位置とスマホのマップが重なった。

「……ここだ。」

見渡しても、ただの斜面と雑草しかない。

何かの目印があるわけでもない。

とりあえず、落ちていた太い枝を拾い、地面を掘り返してみる。

ザクッ、ザクッ──湿った土の感触が伝わる。

それでも、何も出てこない。

もうやめようかと思った、その時だった。

ゴンッ。

硬い何かに当たった。

思わず息を止め、手で土をかき分ける。

土の中から、錆びた金具が見えた。

さらに掘ると、金属の取っ手が現れた。

「……スーツケース?」

両手で引きずり出すと、全身が土まみれになった。

時計を見ると、掘り始めてからもう一時間が経っていた。

スーツケースほどの大きさの鞄。

鍵穴が一つ、銀色に光っていた。

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