しばらく走ったり跳んだりして、猫の体の動きを確かめているうちに──
ふいに、ぐぅ、と腹が鳴った。
「……腹、減ったな」
そういえば、人間だったころは朝にパンを食べるのが日課だった。
だが今は、見た目は完全に猫。
財布もなければ、コンビニでおにぎりを買うわけにもいかない。
どこでご飯にありつけばいいのか……まったく想像がつかない。
飼われている猫なら、家に帰ればいい。
餌皿にカリカリが入っていて、誰かが用意してくれる生活が待っている。
しかし、俺には自分が飼い猫だったのかどうかすらわからない。
この体に“過去”があるのかも不明だ。
「困ったな……どうすりゃいいんだ」
ゴミを漁る?
いや、正直それはイヤだ。プライドが許さない。
ネズミを捕まえる?
体は猫でも、中身は完全に人間だ。
そんな野生的なことを想像しただけでゾッとする。
なら、人からもらうのが一番いいんじゃないか。
昔、テレビで見たことがある。
公園でうろついていた猫を、子どもが「かわいい!」と家に連れて帰り、そのまま飼ってもらう──そんな話。
「……ああいうの、あるよな」
もしかすると、俺にもチャンスがあるかもしれない。
けれど、俺はオッサンだ。
中身は完全にサラリーマンだ。
子どもに甘えるような愛らしい仕草なんて、すぐにできる気がしない。
それでも、他に手段はない。
空腹はどんどん強まってくる。
猫の体は小さい分、エネルギーの消費も速いらしい。
足も震えてきた。
「……とりあえず、公園に行ってみるか」
猫になったばかりの俺が最初に覚えた本能は、
“空腹”ではなく──
“生き延びるために考える心”だった。
