第4話 最初の空腹

しばらく走ったり跳んだりして、猫の体の動きを確かめているうちに──
ふいに、ぐぅ、と腹が鳴った。

「……腹、減ったな」

そういえば、人間だったころは朝にパンを食べるのが日課だった。
だが今は、見た目は完全に猫。
財布もなければ、コンビニでおにぎりを買うわけにもいかない。

どこでご飯にありつけばいいのか……まったく想像がつかない。

飼われている猫なら、家に帰ればいい。
餌皿にカリカリが入っていて、誰かが用意してくれる生活が待っている。
しかし、俺には自分が飼い猫だったのかどうかすらわからない。
この体に“過去”があるのかも不明だ。

「困ったな……どうすりゃいいんだ」

ゴミを漁る?
いや、正直それはイヤだ。プライドが許さない。

ネズミを捕まえる?
体は猫でも、中身は完全に人間だ。
そんな野生的なことを想像しただけでゾッとする。

なら、人からもらうのが一番いいんじゃないか。
昔、テレビで見たことがある。
公園でうろついていた猫を、子どもが「かわいい!」と家に連れて帰り、そのまま飼ってもらう──そんな話。

「……ああいうの、あるよな」

もしかすると、俺にもチャンスがあるかもしれない。

けれど、俺はオッサンだ。
中身は完全にサラリーマンだ。
子どもに甘えるような愛らしい仕草なんて、すぐにできる気がしない。

それでも、他に手段はない。

空腹はどんどん強まってくる。
猫の体は小さい分、エネルギーの消費も速いらしい。
足も震えてきた。

「……とりあえず、公園に行ってみるか」

猫になったばかりの俺が最初に覚えた本能は、
“空腹”ではなく──
“生き延びるために考える心”だった。

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