目的地に向かい、車を走らせる。
まだ半分も来ていないが、早くも少し疲れてきた。
眠気を誤魔化すようにラジオをつけても、知らない曲が流れてくるだけだ。
「……腹でも満たすか。」
そう呟き、ドライブスルーのあるハンバーガー屋に入った。
セットを買い、少し先のコンビニ駐車場に車を停める。
ポテトをつまみながら、ぼんやり考えた。
親は裕福ではなかった。
贅沢もせず、いつも同じような生活。
けれど、食べるものに困ることもなく──“普通”という言葉が一番しっくりくる家庭だった。
年に数回の家族旅行を思い出す。
海や温泉、道中で聴いたラジオ。
小さな車に荷物を詰めて、くだらない話をして笑っていた。
あの頃は、確かに楽しかった。
「もしかして、宝って……家族の思い出ってことか?」
思わず口にして、自分で苦笑いする。
だったら、こんな場所に隠す必要なんてない。
ハンバーガーを食べ終え、エンジンをかける。
少し走ると、パチンコ屋のネオンが目に入った。
なぜか“今日は勝てる気がする”という根拠のない予感がした。
気づけば駐車場に車を入れていた。
結果は、出たり飲まれたりの繰り返し。
結局、二万円の負け。
「やっぱりな……」
小さくつぶやき、レシートの裏で汗を拭う。
外に出ると、空はすっかり暗くなっていた。
街灯が少ない田舎道、フロントガラスに映る自分の顔が少し疲れて見えた。
「こんな暗い中、行くのか……」
一瞬、引き返そうかと思った。
だが、ここまで来て戻るのも癪だった。
ナビを再設定し、アクセルを踏む。
目的地までは、あと40分。
ヘッドライトが照らす細い道の先に、黒い森の影が見えていた。
