目が覚めると、すでに昼前だった。
カーテンの隙間から差し込む光が、部屋のほこりを照らしている。
昨日の夜は妙に寝つけなかった。
あの地図の赤い印が、何度も頭に浮かんできて──気づけば朝になっていた。
「腹減ったな……」
寝ぼけたまま、台所でカップラーメンにお湯を注ぐ。
すすりながらスマホを眺め、特に興味もないニュースを流し読みする。
“値上げ”“炎上”“事故”。
同じような文字が流れていく。
何も感じなくなっている自分に気づき、少し笑えた。
食べ終わったあとも、まだ何か物足りない気がして、パンを取り出した。
食パンを手に取り、ぼんやりとかじる。
その瞬間──ふと、視界の端に妙な形が映った。
「……地図、みたいだな。」
パンのかじった跡が、まるで昨日見つけた地図の形に見えた。
偶然だろう。
だが、あまりにもタイミングが良すぎた。
テーブルの上にパンを置き、昨日の箱を引っ張り出す。
中の地図を広げて、パンの形と見比べてみる。
当然、一致するはずもない。
でもなぜか、心臓が少しだけ早くなっていた。
「……行ってみるか。」
自分でも、なぜそう思ったのか分からない。
ただ、あの赤い印をこのまま放っておくと、ずっと気になり続ける気がした。
マップアプリをもう一度開く。
車で2時間、そこから少し山に入るルート。
「ま、天気も悪くないし……ドライブがてら、な。」
小さく呟き、車の鍵を手に取った。
その瞬間、どこからか“カチッ”という音がした。
振り向くと、机の上に置いたあの銀色の鍵が、わずかに転がっていた。
まるで、出発を促すかのように。
