第11話 「余裕という魔法」

金を持つということが、こんなにも人生を変えるとは思わなかった。

最初は部屋を整えただけだったが、それだけで毎日の景色が違って見える。

朝の光が窓から差し込む瞬間、部屋全体が金色に染まり、

自分の人生まで照らされているような気がした。

不思議なことに、金を手にしてから俺は明らかに変わった。

道路で合流しようとする車がいれば自然と譲り、

電車では迷いなく席を差し出す。

誰かが怒鳴っていても、以前のようにイライラしない。

「どうせ、この人にも何か事情があるんだろうな」と思える。

心に“余白”が生まれたと言えばいいのだろうか。

昔はギリギリの心で生きていた。

小さなことで怒り、小さなことで落ち込み、

いつも何かと戦っていた気がする。

だが今は違う。

金は確かに人を変える。

悪い意味ではなく“良い方向に”。

金があると、人は寛容になれる。

ゆとりがあるというだけで、

こんなにも世界の見え方が違うのかと驚くほどだ。

スーパーで迷っていた高級肉を迷わず買い、

食卓にはちょっと贅沢な総菜を並べる。

旅行先を調べるときでさえ、値段の欄を見る前に行きたい場所を選ぶ。

これまで抑え込んでいた“やりたいこと”が、

次々と湧き上がってくる。

「お金は持つものなんだ」

それが自然と理解できた。

お金に振り回されるのではなく、

堂々と手の中で静かに抱えておくもの。

この穏やかで、少しだけワクワクする日常は、

もはや以前の“普通の生活”とは比べ物にならない。

金の存在が、俺の人生を“豊かさ”という別の次元へ引き上げてくれたのだ。

まだこの先に何があるかわからない。

だが、

「もっと人生を使ってみたい」

そんな前向きな欲が、また静かに胸の奥で灯り始めていた。

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