俺はどこにでもいるサラリーマン。
毎日同じ電車に乗り、毎日同じ職場で同じ顔に挨拶。
昨日も今日も、きっと明日も変わらない。
子供の頃は毎日が楽しかったのに、いつからこんな生活になったのだろう。
まだ人生は50年くらいあるだろうか。
半分が過ぎた今、残りを考えると気が遠くなる。
お金があるわけでもないし、妻や子供がいるわけでもない。
友達もいない。
定年後、何をして過ごせばいいのか──考えるだけで胸が重くなる。
明日は久しぶりの休み。
特に予定もない。
せめて部屋の不用品でも片付けよう。
そう決めて、コンビニ弁当を食べ、テレビを眺めながら眠りに落ちた。
翌朝、遅い朝日がカーテン越しに差し込む。
目を覚ましても、起き上がる気力が湧かない。
しばらくぼんやり天井を見つめた後、ようやく体を起こす。
「捨てるか……」
呟いて、重い腰を上げた。
押し入れの奥や引き出しの中。
何年も触っていないものが山ほど出てくる。
もう使わないケーブル、壊れた時計、古い封筒。
それを一つひとつ分けながら、無意識に手が止まった。
引き出しの一番奥、何かの影が見えた。
指先で掴んで引き出すと、薄い黒い箱が出てきた。
見覚えがない。
「こんなの、あったか……?」
手のひらに収まるほどの小さな箱。
埃を払い、ゆっくりと蓋を開ける。
中には──銀色の鍵が一つ、入っていた。
どこの鍵なのか分からない。
ただ、妙に冷たくて、重く感じた。
胸の奥で何かがざわついた。
心当たりのない“鍵”を見つけた瞬間、部屋の空気が少しだけ変わった気がした。
