【第四話】 別れの予感

俺たちは、いつのまにか「仲間」と呼ばれる関係になっていた。

一緒にホールを回り、同じグラフを見て台を選ぶ。だが、勝った金はそれぞれのもの。そこにルールはない。

問題はすぐに起きた。

同じパターンを追う以上、狙う台がかぶる。先に座った者が勝ち、遅れた者はただ見ているだけ。

そのうち、互いに牽制し合うようになり、台の取り合いが始まった。肩をぶつけ、罵声が飛び、ついには店員が止めに入ることもあった。

「なんでそんなにこの台にこだわるんですか?」

店員の目が、少しずつ俺たちに向けられ始める。

数時間後、その“揉めた台”が爆発的に出すのだから、無理もなかった。

あの二人は気づいていないようだったが、店員の視線は日に日に鋭くなっていた。

俺は悟った。

――もう長くは続かない。

この街から離れよう。そう決めたのは、ほんの気まぐれだったのかもしれない。

だが、どこかで終わりを感じていたのは確かだった。

引っ越しの前日、俺は最後に近所のホールへ向かった。

そして、フロントで店長を呼び出し、スマホの画面を見せた。

そこには、例の二人が出玉を積み上げ、笑っている写真が並んでいた。

「自分も一時期は一緒にいましたが、もう引っ越します。

 二度とこの辺りでは打ちません。」

店長は眉をひそめ、そして静かに頷いた。

「ありがとう、助かります。」

その言葉を聞いたとき、胸の奥が妙に軽くなった。

夜風が顔を撫でる。ネオンの光が遠ざかっていく。

俺は誰にも知られず、街を後にした。

――また、ゼロから始めればいい。

そう思いながら、背後のホールが小さく消えていくのを見つめていた。

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